杏ノート

花や木や石の話です

和椹(本文)

2023/08/09   本文公開。

 

 

 

和椹(倭椹)。典座教訓の出てくる言葉であるが以前これは何かと思って不思議に思って調べた。

以下その時のメモ書きである。

 

🍜

13世紀初めの頃に書かれた『典座教訓』の中に「和椹」という語が出てくる。これは、中国僧が麺汁を作るために日本人に求めて買ったものである。この「和椹」については幾つかの解釈がある。

「椹」は通常は桑の実を示す。しかしこの桑の実をどのように料理に用いたかについては資料が無い。一般に桑の実は生食かもしくはジャムのように煮て食べるが、この種の物を麺に入れて食べる習慣は中国には無い。

『斉民要術』の中には桑の実を発酵のための酵母として用いるものがあるという。確かに果実や野菜の表面の酵母は発酵に用いることができる。気温が良くても最低3〜5日はかかるが得られた酵母は小麦粉の生地を膨らませるのに十分である。ただし、発酵した生地を麺に用いることはあるのだろうか。

当時の麺、特に汁のある麺汁に用いられたものは何であろうか。

13世紀末から14世紀頃にしるされた『居家必用事類全集』には幾つかの麺の製法が書かれている。当時の料理には既に「スープ(だし)」の概念があったようであり、麺には肉だしと精進だしの2種が用いられている。この精進だしに用いられるのが「磨茹」であった。

「磨茹」はフデタケやハラタケなど一定しないがキノコには違いない。『居家必用事類全集」では頻回にだしとして用いられている。

但し「椹」にはキノコ類の意味は無い。「木椹」は木に生えるキノコの総称である。

 

🍜

これを書いた当時は、和椹は桑の実説も酵母という意味で捨てがたかった。

でも、発酵した麺を老麺と言うけれど、この場合の麺は饅頭とかの生地を指している。ラーメンでは無い。

典座教訓の麺汁というのは、ふわっとしていてモチっとしていたお団子の入ったすいとん汁であった、という空想も面白い。ヨーロッパのすいとんであるダンプリングなんかも発酵したたねで作るものがあるらしい。

しかし結局のところ証拠はない。

だしと具の兼用でキノコ(椎茸?)を用いた、それが和椹(倭椹)であるという説の方が無難である。